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消せない記録。

 『小栗上野介忠順』。

 幕末最後の幕閣で数々の諫言で辞職し、しかしその力量を買われて復職。それを

繰り返すこと数えきれず。海軍の礎を築き、幕府の軍政改革に尽くすも最後は官軍に

よって斬首されたひとりの男。

 財政担当だったことから埋蔵金を山中に隠したともいわれ、とかく悪役のイメージが

つきまといますが、最近はその名誉も回復しつつあるようです。

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 私がその人物に出会ったのは_大島昌宏著『罪なくして斬らる(学陽書房・文庫)』_

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でした。

 読んだのは名作ぞろい(?)の『新潮社書き下ろしシリーズ』でしたが、今は入手困難。

その後『学陽書房』で再発しました。

 まだ時代小説の世界の扉を叩いたばかりの頃で、その偉業なども知る由もなく、

当然ながら埋蔵金云々などは…。

 ただこの『罪なくして斬らる』という書名に惹かれて手に取りました。

 あとがきによれば_斬首から1年後、遺臣たちの手でその遺骨が無縁墓地から

東禅寺裏手の胴塚に移(盗み出)され、ひそかに葬られていたそうで、その塚の

碑文にあった文言がこの『罪なくして斬らる』_なのだそうです。

 官軍への憚りから秘匿され語られず、胴塚に刻まれ、実に九十年。

 公にもされず、眠っていたその言霊がこの作品とともに目覚めたかのように脳裏に

刻み込まれました。

 本書で語られるその激動の生涯もさることながら、進退窮まり、いよいよ官軍が

迫ってくるのを間近にして妻子を落ち逃す場面が忘れられません。

 なんとしても落ちのびさせようという部下や家族の手をふりきりその場に残った忠順。

 そしてその未来を托され懸命に逃げる妻と子。その運命は…。

 …まさにその過酷さに涙ぐむかも知れません。

 斬首の理由だった、あるはずの埋蔵金は出ずに、追い詰めた官軍の悪行の方が

次々と掘り起こされるとは皮肉なものです。

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 そんな忠順とは真逆の生き方をしたひとりの武将を思い出します。

 『荒木村重』こと『荒木道薫』。

 君主信長に謀叛をはたらいたが失敗し、落城する直前、家臣や一族を見捨て、逐電。

捕らわれた妻や子供が斬首されても、自分は茶人として、秀吉の『御伽衆』としてひとり

生き残った汚名の人。

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 本書はあの狐狸庵先生こと遠藤周作氏の数少ない『時代小説』です。

 戦国三部作の1作で『武功夜話』をもとに書き下ろした作品。

 非情な『信長』に『村重』がいかに反逆したか、そして落ちのびるか、までが前半。

 後半はあの『光秀』、『柴田勝家』が描かれます。

 ただ、それだけではなく彼らをとりまく女性たちが魅力的に描かれているのが特徴。

 強く気高く生き、でも運命には逆らえずに夫に殉じたその生き様に涙を禁じえません。

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 この二作品を読み比べる方はいないとは思いますが、ご参考までに。

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