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2009年5月

蜃気楼の彼方。

その日、

城下町は夜明け前のしじまを破られた。

大勢の足音によって。

その総勢60名の捕り方の相手は

_空を飛び回る『鵺(ぬえ)』 だ。

            ************

_時は天明5年の六月未明、場所は備前岡山の城下町。

捕り方の視線は間口三間あまりの町家に集まっている。

同心たちが必死に探索して突き止めたのがそこだった。

そこには_

城下一帯を騒がせ、『イツマデ、イツマデ』と鳴いては藩の失政をあざ嗤い続けてきた

『鵺』が潜んでいるかも知れないと、捕り方は目潰しを手に握り、二階の窓や瓦屋根に

視線を向けて警戒をしていた。そして、その中へ町名主と五人組頭が入っていった…。

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そんな緊迫した場面から始まる本書は、あの出世作_

雷電本紀  /飯嶋和一/著 [本] 雷電本紀 /飯嶋和一/著 [本]
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で一躍、彗星の如く歴史小説界に登場した『飯島和一』の五作(?)目。

 その作品は『ハズレなし』と定評のある著者。本書も違うことなく読みごたえあり!

            ************

 主人公は『鳥人』備前屋幸吉。厄災が打ち続く暗黒の天明期に、表具師として大成

しながらも凧作りに夢中になり、やがて己が凧に…。波乱の生涯を過ごした人物。

 しかし、それだけではなく_塩問屋の巴屋伊兵衛、たく駝丸の船頭で幸吉の幼馴染の

源太郎_それぞれが同じ空の下でつながり、影響し合い、それぞれの生き様が重なって

いく…。天明の大飢饉で疲弊し、腐敗した世の中を打ち破ろうとする人々の憤怒と希望に

背中を押され、駆け抜けた人々の熱い物語となりました。

 彼らは一様にそれまで築きあげた地位や立場を『馬鹿馬鹿しい』と嗤い飛ばし、『なんて

ザマだ…』と己を叱咤し、そこに安住することなく、遠くを見つめて生きていく。その姿に

喝采を浴びせるのは当時の人々だけではなく、時をも越えて現代の私たちにも通じるもの

があります。

 腐敗しているのは、糞侍(ぶさ)どもの生活維持しか考えず暴利をむさぼり、民を

省みない悪政か。それとも、流れをせき止められた水のように、息を潜め、停滞している

己の人生か…。

 そう、今も『鵺』は夜空を飛んでいるかもしれません。

 腐敗臭を放つ世の中の空を。『イツマデ、イツマデ』と啼きながら…。

 ………

 では、また次回。

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河から海へ。

待ってました!

名作『河よりも長くゆるやかに(小学館)』からおよそ20年。

河よりも長くゆるやかに (小学館文庫) Book 河よりも長くゆるやかに (小学館文庫)

著者:吉田 秋生
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ようやく待望の作品が刊行されました。

 『河よりも~』は福生の米軍基地近辺の住む男子高校生3人組の甘酸っぱくも

やるせない青春を描いた名作でしたが、『櫻の園』、『BANANA FISH』、『YASHA-

夜叉ー』を経てたどりついた、心に残る珠玉の作品が_

海街diary 1 蝉時雨のやむ頃 Book 海街diary 1 蝉時雨のやむ頃

著者:吉田 秋生
販売元:小学館
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 この『海街diary』シリーズ。

 鎌倉を舞台に異母四姉妹の哀歓を心情豊かに、『家族』の絆を中心に描いています。

             ************

 両親が離婚してから15年。それから一度も会わずにいた、父の突然の訃報。

 『…こまったなあ、ちっともかなしくない…』

 実感もわかずに、葬式に出かける三姉妹。そこには再婚後の父の家族がいて、

それを気丈に支える異母姉妹の『すず』の姿があった。その姿はかつての長女の姿と

重なり、遺品の写真から呼び起こされた父の記憶とともに悲しみに包まれる姉妹たち。

 そしてその時から、『すず』との新しい『家族』の物語が動き出す…。

 物語の登場人物たちは皆何かを背負って生きている。親と子、母と娘、娘と子など、

その関係はそれぞれの『家族』に影を落とす…。そして、突然降りかかる、つらさや

悲しみの中で人々は傷つき、他の誰かを傷つけてしまう。

 そんなどうしようもない切なさにも、前向きに生きていこうとする姿を励ましたくなるも、

実は励まされている、ことに感銘をうけるだろうと思います。

 一編、一編が短編小説がごとき充実した内容で、男性にも薦められる作品。

 あまり内容にふれてもいけませんのでこのくらいで。

  現在、第2巻『真昼の月』が刊行中_

海街diary 2 (2) (フラワーコミックス) Book 海街diary 2 (2) (フラワーコミックス)

著者:吉田 秋生
販売元:小学館
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 同時に_

すずちゃんの鎌倉さんぽ―海街diary (フラワーコミックススペシャル) Book すずちゃんの鎌倉さんぽ―海街diary (フラワーコミックススペシャル)

著者:吉田 秋生,海街オクトパス
販売元:小学館
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 も刊行されました。

 こちらは作中に出てくる鎌倉の名所などの観光案内。

 秋の行楽シーズンの参考にいかがでしょう。夏はかなり暑いでしょうから。

 _では良い1日を。

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事件をお取り寄せ。

今は何でも『お取り寄せ』ができるようになりました。

本やDVD、CDはもちろん、衣服や生活雑貨、電化製品、家具も。

そして、生鮮野菜や調理品も。

たいていのものなら、電話やインターネットで簡単注文。

そして、在庫さえあれば2~3日で手元に。

配送、包装技術もさることながら、

冷凍やフリーズドライなどの保存技術の

飛躍的な向上があってこそなんでしょうけど。

そのうちに○○なんてのも取り寄せられるように…

            ************

 唯一の趣味が『全国銘菓』を取り寄せて食べることで、料理の腕前は玄人はだし。

ただし_自称『ひきこもり』、で心を閉ざしがちな『鳥井』。その幼馴染で、そんな彼を

外に連れ出して世界を広げようとする、サラリーマン『坂木』_本書はそんな、さながら

『ホームズとワトソン』のコンビのふたりが、身近な謎を解き、出会いをとおして成長

していく物語です。

青空の卵 (創元推理文庫) 青空の卵 (創元推理文庫)

著者:坂木 司
販売元:東京創元社
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 毎回、ワトソン役の『坂木』がもちこむやっかいごとをホームズ役の『鳥井』が嫌々

ながらも解き明かしていく連作ミステリーなのですが、その関係性が特異でしょうか。

 『鳥井』を_『僕という一神教の熱烈な信者だ』_と思いながらもその信仰にこたえる

べく_『恥じない行動をこころがけて』いるが、非力で子離れならぬ『友達離れできない』

『坂木』。そんな『坂木』を気遣い、彼が『傷ついたり』、自分との『関係を上手に結べなく

なった』とたんにパニックに陥ってしまう『鳥井』。お互いが依存しあっていて、お互いを

思いやり、お互いが傷つかないように共に生きていたのですが…その関係は話が進む

ごとに少しずつ変わっていく。それを喜びつつも自分の手元から飛び立ってしまうかも

しれない寂しさと葛藤しながら見守る『坂木』の心の揺れが繊細に描かれていきます。

 また、連作シリーズものらしく、登場人物が次々と増えていくのも楽しみのひとつです。

事件の当事者として悩んでいたかと思うと違う事件では協力者として奔走する…。その

輪は広がり、『鳥井』と『坂木』の世界をも広げていく。この先、ふたりはどうなっていくの

か…。

 本書はその三部作の第一作目。

仔羊の巣 (創元推理文庫) Book 仔羊の巣 (創元推理文庫)

著者:坂木 司
販売元:東京創元社
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 二作め ↑。 『卵』は『巣』の中で育っていく…。

動物園の鳥 (創元推理文庫) Book 動物園の鳥 (創元推理文庫)

著者:坂木 司
販売元:東京創元社
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 完結編 ↑。これは長編。 はたして『巣』から『鳥』井は飛びたてるのか?

            ************

 たぶん小さい書店では入手しにくいでしょうから

 『取り寄せ』て、終わりまでのページ数を惜しみながら読んで下さい。

                                         次回へ続く。

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誰でも主人公。

 小旅行から帰って一息ついた時、開口一番に言う台詞が_

 『あー、やっぱり家が一番!』

 ………。

 _それなら、どこにも行かなければいいんでしょうが、少し経てば

また、旅支度をはじめる。

 旅とはいったい何なのか?

            ************

 彼は旅人。

 場所はアメリカ。

 それも『そこに住んでいる人以外は誰も知らないような』_ごく小さな町

『スモールタウン』だけを選んでレンタカーで横断するという永年の課題を果たすために。

 そこにある『アメリカの素顔』を探す旅に。

            ………

語るに足る、ささやかな人生 (小学館文庫) Book 語るに足る、ささやかな人生 (小学館文庫)

著者:駒沢 敏器
販売元:小学館
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 著者はあの『Switch』の編集者を経て、作家、翻訳家になった、いわばアメリカ通。

 本書はそんな彼が普通なら通り過ぎてしまうような、見向きもされない場所_

『スモールタウン』を直感と偶然性だけでつなぐ、無作為の旅の記録を短編集のように

紡いだ作品です。

 大平原に恐竜のようにそびえ立つスクリーンのある町でカウボーイに出会い、幽霊の

棲むホテルのレストランで食事をし、コンピュータ管理の酪農家に立ち寄り、元大統領

の出身地で幼児虐待のための保護機関(CASA)で幸福について考え、世界のナマズ

の首都で料理を教わり、マウンテン・ミュージックが流れる町で花火を見る…。

 そうした『小さな町の住人たちの、フェアな精神とかぎりないやさしさ』がもたらす

素晴らしさとアメリカ大陸の大自然がもたらす刺激に感銘をうけながら著者は旅を

続けていきます。

 現在の資本主義の象徴ともいえる、巨大な成功者が暴走するアメリカにもこんな、

小さいけれど平和で幸福な生活を望む人たちの『語るに足る、ささやかな人生』がある

_それはきっと何かを私たちにもたらすだろう_そう自信をもって語りながら。

 旅に出る前に読んでみてほしい1冊です。

            ************

 最後に著者はいう。

 旅とは_『そこに生きている人たちに向けている視線』がやがて、『自分の内にも

振り向けられ』、そこで『君は何をして生きているのか』という自分の囁きに気づくことで

あり、それは結局、『どこにいても同じこと』であり、わざわざ『旅をする意味など本当は

どこにもなく』、普段の生活で見出されることを、『わざわざ遠くまで探しに来ているような

もの』_だと。

          ………

 人は旅に出る。

 時間をかけて自分を知り、何をして生きるかを探すために。

 ………

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消せない記録。

 『小栗上野介忠順』。

 幕末最後の幕閣で数々の諫言で辞職し、しかしその力量を買われて復職。それを

繰り返すこと数えきれず。海軍の礎を築き、幕府の軍政改革に尽くすも最後は官軍に

よって斬首されたひとりの男。

 財政担当だったことから埋蔵金を山中に隠したともいわれ、とかく悪役のイメージが

つきまといますが、最近はその名誉も回復しつつあるようです。

                   ***************

 私がその人物に出会ったのは_大島昌宏著『罪なくして斬らる(学陽書房・文庫)』_

罪なくして斬らる 罪なくして斬らる

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でした。

 読んだのは名作ぞろい(?)の『新潮社書き下ろしシリーズ』でしたが、今は入手困難。

その後『学陽書房』で再発しました。

 まだ時代小説の世界の扉を叩いたばかりの頃で、その偉業なども知る由もなく、

当然ながら埋蔵金云々などは…。

 ただこの『罪なくして斬らる』という書名に惹かれて手に取りました。

 あとがきによれば_斬首から1年後、遺臣たちの手でその遺骨が無縁墓地から

東禅寺裏手の胴塚に移(盗み出)され、ひそかに葬られていたそうで、その塚の

碑文にあった文言がこの『罪なくして斬らる』_なのだそうです。

 官軍への憚りから秘匿され語られず、胴塚に刻まれ、実に九十年。

 公にもされず、眠っていたその言霊がこの作品とともに目覚めたかのように脳裏に

刻み込まれました。

 本書で語られるその激動の生涯もさることながら、進退窮まり、いよいよ官軍が

迫ってくるのを間近にして妻子を落ち逃す場面が忘れられません。

 なんとしても落ちのびさせようという部下や家族の手をふりきりその場に残った忠順。

 そしてその未来を托され懸命に逃げる妻と子。その運命は…。

 …まさにその過酷さに涙ぐむかも知れません。

 斬首の理由だった、あるはずの埋蔵金は出ずに、追い詰めた官軍の悪行の方が

次々と掘り起こされるとは皮肉なものです。

                   ***************

 そんな忠順とは真逆の生き方をしたひとりの武将を思い出します。

 『荒木村重』こと『荒木道薫』。

 君主信長に謀叛をはたらいたが失敗し、落城する直前、家臣や一族を見捨て、逐電。

捕らわれた妻や子供が斬首されても、自分は茶人として、秀吉の『御伽衆』としてひとり

生き残った汚名の人。

反逆〈上〉 (講談社文庫) Book 反逆〈上〉 (講談社文庫)

著者:遠藤 周作
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反逆〈下〉 (講談社文庫) Book 反逆〈下〉 (講談社文庫)

著者:遠藤 周作
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 本書はあの狐狸庵先生こと遠藤周作氏の数少ない『時代小説』です。

 戦国三部作の1作で『武功夜話』をもとに書き下ろした作品。

 非情な『信長』に『村重』がいかに反逆したか、そして落ちのびるか、までが前半。

 後半はあの『光秀』、『柴田勝家』が描かれます。

 ただ、それだけではなく彼らをとりまく女性たちが魅力的に描かれているのが特徴。

 強く気高く生き、でも運命には逆らえずに夫に殉じたその生き様に涙を禁じえません。

                    ***************

 この二作品を読み比べる方はいないとは思いますが、ご参考までに。

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